2020年に劇場公開された『ある画家の奇妙な運命』の予告編動画は、こちら
『ある画家の数奇な運命』は、ナチス政権下の激動期のドイツを舞台に 苦悩を希望と喜びへと昇華させていくリヒターの半生を描き、観る者すべてに勇気をくれる感動作!
数奇な運命を生きた 芸術家の物語
本作ではナチズムが台頭したヒトラーの時代から、東ドイツの共産主義とベルリンの壁建設によるドイツの歴史や、ナチの弾圧による「退廃芸術展」から ドュッセルドルフの前衛芸術という美術の潮流も描かれる。
そして、本作には激動の時代に翻弄された主人公の成長に合わせて、当時の歴史と美術だけでなく、戦争をはじめ 表現の自由や優生思想などのテーマがぎっしり詰まっています。
長尺ながら素晴らしい作品
本作は第二次世界大戦時のドイツの歴史と芸術を軸に、ナチスの支配から共産主義への支配や全体主義が美徳とされる国で真の芸術とはなにかを、垣間見せてくれる作品。
歴史上の偉人などを描いた伝記映画は当たり外れが激しいが、本作品は三時間超の長尺ながら、真実を芸術へと昇華させる主人公の姿が圧巻のドラマで描かれ、全く飽きることのないストーリーで観客をエンドロールまで引き付ける。
そして映画をみながら、当時のナチ政権の弾圧による芸術の潮流を学ぶことができます。
ナチの弾圧による「退廃芸術展」とは?
ナチの独裁者アドルフ・ヒトラーは近代美術を毛嫌いし、近代美術はユダヤ人前衛芸術によって汚染されていると考え、ドイツ人の魂に反する暴力的な芸術行為とみなしていた。
ヒトラーが好んだ芸術は近代美術以前のドイツの伝統的な絵画であり、また近代美術を担っていた芸術家や画商に、ユダヤ人が多かった点もヒトラーにとって気に入らなかった。
そうして、ナチスの文化統制は厳しさを増し、前衛的な表現や非ドイツ人的な表現を「退廃芸術」と名付け弾圧を始め、5000点以上の作品が押収され 売却や焼却処分されたのです。
1937年にはミュンヘンで、ナチス政権企画のもと『退廃芸術展』というタイトルで展覧会が開催され、ナチスが押収した近代美術が一斉に展示されました。
その展示会は近代美術への批判を一般大衆に煽るように設計され、各作品を嘲る悪意のテキストラベルが付けられた展示構成になっており、ドイツの各都市やオーストリアで巡回展示が行われシャガールやクルー・ピカソ・ミロなど著名な絵画が多く展示されました。
烙印を押された芸術家の運命
ヒトラーによりドイツの前衛芸術家たちは国家の敵であり、ドイツ文化に対する脅威であると烙印を押された多くの芸術家たちは亡命者となり、アメリカやロンドン、スイスなどへ亡命し、ドイツから亡命しなかったユダヤ系の画家たちは強制収容所へ送られホロコーストのT4作戦で殺害されました。
『ある画家の数奇な運命』の主人公となるゲルハルト・リヒターも、芸術の自由を求めて妻と一緒に西ドイツに亡命し、創作活動に没頭するのでした。
世界最高峰の現代アーティスト ゲルハルト・リヒター
ドイツが生んだ現代美術の巨匠ゲルハルト・リヒターは、現代アート界で名実ともに世界最高峰の評価を受け、世界中の主要な美術館が彼の作品をコレクションしています。
日本では2005年に「金沢21世紀美術館」と「川村記念美術館」で回顧展を開催し、2016年には瀬戸内海の豊島にリヒター作品を恒久展示する日本初の施設がオープンしました。
『ある画家の数奇な運命』のあらすじ
ある画家の数奇な運命・・・
ヒトラーが台頭する ナチス党政権下のドイツ。
少年クルトは、芸術を愛する叔母の影響で 絵画に興味を抱きながら育つ。
しかし、叔母は精神の均衡を失い、強制入院の果てに安楽死させられてしまう。
終戦後、東ドイツの美術学校に進学したクルトは、エリーという女性に出会って結婚する。
だがクルトは、ナチ党の元高官だったエリーの父親が、叔母を死に追いやった張本人だと知らずにいた。
やがて東ドイツのアート界に疑問を抱いたクルトは芸術の自由を求め、エリーを連れて ベルリンの壁崩壊前に西側に逃亡した。
逃亡後は美術学校の教授から酷評されつつも、叔母の遺したある言葉を胸に刻み、創作に没頭しようとする・・・魂に刻んだ 叔母の言葉は「真実はすべて美しい」。
前・後半パートの対比が見事!
本作は実在する画家の半生を描いた作品だが、前半パートでは主人公が巡り合う数奇な人間関係が明かされ、後半では成人後の芸術と生活とドイツの社会情勢の間でもがき苦しむ後半パートの対比が見事に描かれています。
キャスト
トム・シリング、セバスチャン・コッホ、パウラ・ベーア、オリヴァー・マスッチ、ザスキア・ローゼンタールなどが出演。
監督は『善き人のためのソナタ』(2006年)で第79回アカデミー賞・外国語映画賞を受賞したフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督。
超長尺にして超良作映画
『ある画家の数奇な運命』は、観る者を奮い立たせてくれる芸術と自由についての映画。
本作は上映時間が3時間を超える超長尺ですが、長さを感じさせない・・・超良作です!
作品情報
製作国:ドイツ
監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
上映時間:189分
劇場公開日:2020年10月2日
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