映画『ファーザー』は、老いと認知症の残酷さを描きながらも、人生の尊厳と愛の深さを教えてくれる作品です。
81歳のアンソニーが主人公で、彼の記憶が薄れ、現実と幻想の境界が曖昧になっていく様子を通じて、認知症患者の世界をリアルに描写しています。
この映画は、単なるドラマではなく、観る者に認知症の追体験をさせ、人生の夕暮れに向き合わせる力作です。
アンソニー・ホプキンスの名演技により、認知症の苦悩と家族の愛を深く感じさせる、心を打つ映画となっています。
2021年に劇場公開された『ファーザー』の予告編動画は、こちら
81歳のアンソニーは認知症により記憶が薄れ始め、現実と幻想の境界が曖昧になっていく。
そして娘のアンが手配した介護人を拒否したことから、彼の確かさが更に揺らいでいく。
『ファーザー』は、認知症患者の父とその娘の葛藤を、患者である父側の目線から描いた人間ドラマ。
少しずつ崩壊する日常
81歳のアンソニーはロンドンで一人暮らしを送っていたが、認知症と思われる症状が出始めていた。
この男は誰?娘はどこ?
そんなある日、アンソニーがキッチンで紅茶を入れていると、リビングから物音がし、不審に思ってのぞいてみると、そこには見知らぬ男がいた!?
ポールと名乗ったその男は、“自分はアンの夫であり、ここは私の家だ” と主張する。
離婚しているはずの娘の夫? わが家を乗っ取ろうとしているのか? 混乱するアンソニーのもとにアンが帰ってきたが・・・なんと彼女は「見たこともない女」の姿になっていた!
傑作舞台を映画化!
『ファーザー』は、日本を含め世界30カ国以上で上演され大絶賛を受けた傑作舞台「Le Pere 父」を基に映画化され、名優アンソニー・ホプキンスが残酷なまでの老いの過程を演じ「羊たちの沈黙」以来、2度目のアカデミー主演男優賞を受賞しました。
認知症を追体験
本作は認知症をテーマにした作品ですが、本筋としては認知症になると本人だけに見える光景を主観に描きだし、認知症患者を通して見た私たちの存在の在り方も描いています。
言い換えれば、自身が認知症になった時 周りの世界がこのように見えているのだと認識させられるのです・・・これは紛れもなく、認知症「追体験」の映画。
認知症とは?
あなたは誰?自分の家はどこ?等・・・「認知症」とはさまざまの脳の病気により、脳の神経細胞の働きが徐々に低下し、認知機能の低下により生活に支障をきたした状態を言います。
認知症は日本だけでなく世界共通の社会課題であり、これまで認知症を題材にした映画が色々と製作されています。
認知症が分かる映画
『毎日がアルツハイマー』(2012年)は、認知症の母親との日々を娘の関口宏子監督がユーモラスに撮影したユニークなドキュメンタリー映画で、観ると元気をもらえる作品です。
スペイン・ゴヤ賞の最優秀アニメーションを受賞した『しわ』は、特別養護老人ホームを舞台に施設で暮らす老人たちの友情や、認知症を受け入れる本人の気持ちが描かれています。
『恍惚の人』(1973年)は、1970年代当時にまだ「認知症」という概念自体が無い時代に、ボケの進行した老人と息子家族との心のふれあいや介護を生々しく描き、高齢化社会へ鋭く切り込んだ作品として注目を集めました。
『明日の記憶』は、これまで国内ではあまり知られていなかった若年性アルツハイマーを取り上げ、50歳の働き盛りのサラリーマンが若年性認知症を受け止める本人と、その家族の過程がリアルに描かれています。
ミステリー的なアプローチ
本作は、老いて認知症を患った父とその娘の葛藤を描く作品と予想していると、いつしか不安な気配が漂い 謎に満ちた不穏さに引き込まれていきます…正にミステリー風の展開!
『ファーザー』は、主人公アンソニーを演じるのは名優アンソニー・ホプキンスであり役のアンソニーと俳優ホプキンスとは、名前も年齢も誕生日も同じという設定になっています。
脚本も共同執筆したフロリアン・ゼレール監督は本作の主人公を、ホプキンスを思い浮かべながら当て書きをしたと語っています。
観るものには映画の虚構と、実際のホプキンスとの境界がわからない仕掛けがされており実際観ていても、彼はアンソニーなのか、演じているホプキンスその人なのか?
そのイメージはすっかり溶け込み重なり合っているのです・・・名演技だけに、実にリアルで巧妙な罠。
アンソニー・ホプキンス出演作品の一覧
映画『ファーザー』あらすじ
81歳になるアンソニーは、認知症の症状が出始めていたが、本人はまったく自覚しておらず、誰の世話もいらないと介護人を拒否していた。
ある日、アンソニーがキッチンで紅茶を入れているとリビングに見知らぬ男が立っていた・・・彼はアンの夫ポールだと名乗りました
そしてアンソニーにはもう1人の娘ルーシーがいたはずだが、その姿はない。
アンソニーは混乱して叫ぶ! ”ここはどこだ? 私は誰なんだ!“ と。
現実と幻想の境界が曖昧になっていく中、アンソニーは ある真実にたどり着く。
キャスト
アンソニー・ホプキンス、オリヴィア・コールマン、マーク・ゲイティス、イモージェン・プーツ、ルーファス・シーウェル、オリヴィア・ウイリアムズなどが出演。
人生の夕暮れという真実
“全ての葉を失っていく”と・・・アンソニーが呟く悲哀からゆっくりとカメラがパンして、窓からの緑樹のそよぎを写し続け 変わらない世界の日常を暗示する。
映画『ファーザー』のラスト
このラストシーンで、風に揺れる木々と葉っぱたちがこの物語の重要なアイテム。
アンソニーの命はもはや葉っぱが枯れ散っていく様になっていく、しかし外には太陽が燦々と輝き緑の木々が風になびいている…散りゆく枯葉と 緑の葉の対比。
『ファーザー』は、哀しいけれど人生のどうしようもない宿命に向き合い…そこから生き直す勇気が湧いてくる映画です。
作品概要
製作国:イギリス・フランス合作
監督:フロリアン・ゼレール
上映時間:97分
劇場公開日:2021年5月14日
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