その檻は生贄の儀式に使われる、木製の檻・ウィッカーマン。
それは巨大な人間の形をしており、中には生贄の動物や人間を入れたまま火をつけて燃やされたという・・・行方不明者捜索のため島を訪れた警察官は、やがて恐るべき島の伝統行事の渦中へと呑み込まれていく!
『ウィッカーマン』は、伝説的なカルト映画の傑作。
恐るべき生贄の儀式
Wicker Man・・・「Wicker」は「編み細工」、「Man」は「人」。
それは柳の枝で編み込まれた巨大な人型の檻で、人間が閉じ込められている。
そして、人間を生きたまま閉じ込め 火をつけて燃やす・・・生贄の儀式!
ウィッカーマンとは何か?
ウィッカーマンとは、古代ガリアで信仰されていた人身御供の一種で、巨大な人型の檻の中に、生贄として捧げる家畜や人間を閉じ込めたまま焼き殺す祭儀である。
人身御供の行為と目的
人身御供(ひとみごくう)は、疫病や自然災害が多かった時代に「神の怒り」を鎮めるために生きた人間を殺し、その血や肉体を神への捧げものとした究極の献身パフォーマンス!
人身御供の行為は、人間にとって最も重要と考えられる人身を供物として捧げることは、神への最上級の奉仕であり、そして神との結びつきを深めるため、という考え方なのです。
現在でもある世界最大の奇祭!
古代の儀式
この儀式は古代エジプトから、インド、中国、南・北アメリカ、アフリカなど広範に行われました。
古代ギリシャ人は、飢饉や災害を避けるために足の不自由な人や犯罪者、奴隷を崖から投げ落とす「ファルマコス」という人身御供を行っていました。
ウィッカーマン・フェスティバル
スコットランドでは現在でも「ウィッカーマン・フェスティバル」という音楽祭が催され、巨像が造られています。
バーニングマン
また、アメリカ・ネバダ州の砂漠で、毎年8月末から開催される巨大な木製人形を燃やす世界最大の奇祭「バーニングマン」があり、いずれの祭りにおいても人間や家畜などの生き物が燃やされる? ことはないようです。
異端の宗教ホラー
恐ろしい島の設定
その島は、異様かつエロチックな原始宗教に支配されている恐ろしい島であった!
映画『ウィッカーマン』のあらすじ
イギリス映画『ウィッカーマン』は、スコットランドに古くから伝わる原始的宗教が信仰されるのどかな島に、外からやって来た熱心なキリスト教徒の警官が異教徒に迫害される様を描いたカルト映画の傑作。
初公開時には様々な不遇の扱いを受け、のちにカルトムービー化した異端の宗教ホラー!
本国イギリスでの公開から25年後に日本公開された、カルトの古典ともいえる作品。
BFIに2本のホラー映画がランクイン
BFIの選定
1999年にイギリスの映画促進機関・BFI(英国映画協会)が選定した「20世紀の最も偉大な英国映画」トップ100のリストには、2本のホラー映画がランクインしています。
ランクインしたホラー映画
そのホラー映画は8位の『赤い影』と、96位の『ウィッカーマン』であり、この2作品は共に1973年に作られ本国では2本立てで公開されました。
またイギリスの大手新聞であるガーディアン社では、ホラー映画ベスト25を紹介する企画で、『ウィッカーマン』を4位に選出しています。
初公開時の評価
当初『ウィッカーマン』は、製作元のブリティッシュ・ライオン社から興行的価値が乏しいと見なされ、メイン上映作品である『赤い影』の添え物扱いであったのです。
斬新な恐怖映画!
『ウィッカーマン』の制作背景
『ウィッカーマン』は、「ドラキュラ」などの英国を代表する怪奇スターのクリストファー・リーと『赤い影』のプロデューサーでもあったピーター・スネルと、『探偵』(1972年)の脚本を手がけたアンソニー・シェイファーのコラボレーションから始まった企画でした。
ロビン・ハーディ監督の参加
そこにシェイファーの友人で、アメリカでCMを作っていた新人のロビン・ハーディ監督が加わり、本作が製作されました。
異端的な宗教を題材に
彼らが構想したのは、フランケンシュタインの怪物や吸血鬼が暴れまくるハマー・フィルムのホラーとはまったく異なり、「異端的な宗教」を題材にした斬新な恐怖映画でした。
長い制作期間
そして、およそ3年近くの歳月をかけて完成させたのが『ウィッカーマン』だったのです。
厳しい低予算とハードスケジュール
財政難のブリティッシュ・ライオン社
実は、本作を製作時のブリティッシュ・ライオン社は財政難に見舞われており、ハーディ監督やシェイファーらは厳しい低予算とハードスケジュールの撮影を余儀なくされました。
季節違いの撮影
春の五月祭を背景にした物語だというのに、季節違いの秋に撮らざるをえなかったため、ロケ地のあちこちをプラスチック製の花で飾り立てるはめになりました。
しかし、そうした苦肉の策で間に合わせた小道具が、得体の知れない異教の島の「違和感」を醸し出したのです。
クリストファー・リーの情熱
この企画に情熱を燃やしていたクリストファー・リーは、ノーギャラで出演し のちに自身の最高傑作のひとつだと公言するくらい本作を気に入っていたといいます。
孤高のカルトムービー
初公開時の不遇
『ウィッカーマン』は、初公開時には名作として有名な『赤い影』の2本立て用の「おまけ」という不遇の扱いを受けました。それ以降もオリジナルフィルムの紛失など様々な理不尽なトラブルを被り、長らく比較すべき作品が見当たらない孤高のホラーでした。
正当な評価
その後1980年代以降にやっとカルトムービーとして正当な評価を得るようになりました。また、2019年に北欧の異教祭事をモチーフにしたアリ・アスター監督作品の『ミッドサマー』が登場し、ミステリアスな「奇祭ホラー」が日本でも大反響を呼びました。
奇祭ホラーの元祖と新世代の融合「ミッドサマー」と『ウィッカーマン』
『ミッドサマー』のあらすじと『ウィッカーマン』の影響
『ミッドサマー』は、アメリカの大学生グループが留学生の故郷のスェーデンの夏至祭に招かれる話ですが、彼らが迎えられるのは、古代北欧の異教を信仰するカルト的な共同体です。
『ウィッカーマン』と同様に、夏至祭の背後には人身御供を求める暗い儀式があります。
この二つの映画は、白夜の中で展開する恐怖と共に、観客に深い印象を与えています。
カルト宗教の描写と現実の反映
『ミッドサマー』の成功は、『ウィッカーマン』に触発されたもので、実際に存在する様々なカルト宗教や土着信仰がホラージャンルにどのように反映されているかを示しています。
特にタイのホラー映画『女神の継承』では、実在の信仰を背景に、狂乱の儀式が描かれるなど、リアルな恐怖が追求されています。
新旧奇祭ホラーの詳細な比較
また『ミッドサマー』と『ウィッカーマン』を通じて、新旧の奇祭ホラーを比較することで、ジャンルがどのように進化し、どのように実在の文化や信仰が取り入れられているのかが見えてきます。
これらの映画がどのようにして現代の観客に受け入れられ、恐怖を植え付けているのでしょうか?
『ウィッカーマン』のリメイクとその意義
2006年の『ウィッカーマン』リメイク版では、ニコラス・ケイジを主演に迎え、オリジナルの持つカルト的なテーマを現代の観客に再提示しました。
このリメイクは、奇祭ホラーが持つ独特の魅力とテーマ性を新しい形で映画ファンに問いかける試みです。
異教徒の異常にして「正常」な世界
キリスト教圏の視点
『ウィッカーマン』は「社会の常識やモラルが通用しない異常な世界」に足を踏み入れてしまった男の恐怖を描いているがこれはキリスト教圏の社会を「正常」と見なした書き方です。
サマーアイル島の住民の視点
孤島であるサマーアイル島の住民もまた自然を崇めるケルトの古代宗教を信仰しており、彼らの視点に立てば、上から目線でキリストの教義をふりかざす警官のハウイーこそは傲慢なよそ者の異教徒とみなされます。
宗教的対立の描写
それぞれ自分が正しいと信じて疑わない両者の言い分はさっぱり噛み合わず、映画はやがてクライマックスの惨劇に突き進みます。
こうした現代の現実にもありそうな、宗教的対立の構図を入念に描き込んだ脚本が素晴らしく、製作から半世紀近く経った現代にも通じるテーマがそこにあるのです。
そこはケルト神話に支配された禁断の島
映画の冒頭
映画は飛行艇に乗った中年の警官ハウイーが、スコットランド本土からリンゴの特産地であるサマーアイル島という孤島にやってくるシーンで幕を開けます。
ハウイーの目的
ハウイーの目的は、匿名の手紙を受け、この島で行方不明になった12歳の少女ローワンを捜すことでした。
ところが、ローワンの写真を見た島民たちは、口々に彼女のことなど知らないと言います。
性的な儀式
夜の草原での目撃
やがてハウイーは、夜の草原でセックスを交わす何組もの男女や素っ裸で焚火を囲んでいる若者らを目撃しました。
島民の生活と宗教
島民は農業に励む普通の生活を送っていますが、宗教や性生活だけは他のイギリス人と異なっていました。
彼らは生まれ変わりを信じ、子供たちに生殖と豊作を願うためのまじないを教え、大人たちは裸で性的な儀式を行っていました。
ハウイーの反応
ハウイーは非常に厳格なキリスト教を信仰しているため、これらの風習に衝撃と嫌悪を隠せませんでした。
島の秘密
サマーアイル卿との対面
この島は領主が未だに隠然たる権勢を敷いていた・・・その後ハウイーは、怪しげな領主のサマーアイル卿と対面したのち、島に隠された秘密に迫っていく。
古代の宗教儀式
サマーアイル卿の祖父の世代では凶作が続いたため、皆でキリスト教を捨て「古代の宗教儀式」を行ったところ島は豊かになり、リンゴの名産地になれたという。
五月祭の準備
島では重要な「五月祭」が近づいており、島民は準備と儀式に忙しく、ハウイーの捜査は進みません。
ローワンの捜索
やがてハウイーは次第に、少女のローワンは儀式の人身御供として「五月祭」の生贄として殺されることを確信します。
儀式の生贄
生贄の正体
祭りが始まり、ローワンが生贄にされかけたところをハウイーは救うが、島民に取り押さえられてしまいます。
そこでサマーアイル卿は、予定している生贄はローワンではなく、ハウイーであることを明かします。
本当の生贄はハウイーだったのです!
罠の正体
匿名の手紙から、今までの全ては彼をこの島へ招きよせて生贄にするための罠だったのです。
生贄の条件
実は「五月祭」で燃やされる生贄には4つの条件がありました。
- 信仰のために「童貞」
- 政府の警官として「王の代理」
- 謎を解く過程で罠にはまった「賢く」
- 「愚かな者」
信仰のために「童貞」であり、政府の警官として「王の代理」、謎を解く過程で罠にはまった「賢く」かつ「愚かな者」ということで、ハウイーは生贄の条件をすべて満たしていたのです。
ウィッカーマンの儀式
そして、その生贄の儀式に使われる巨大な木の人形こそが、ウィッカーマンと呼ばれるものでした。
生贄の人間は、生きたまま焼き殺されてしまいます。
燃え上がる「ウィッカーマン」
最後の儀式
信仰の主催者であるサマーアイル卿は、ハウイーをニワトリやヤギ、豚など他の生贄の生き物と共に、巨大な木の檻・ウィッカーマンの中に閉じ込め、火を投じます。
最高潮の祭り
燃え上がるウィッカーマン!生き物たちの断末魔の叫びが始まります。
ハウイーがキリスト教の詩編23篇を絶叫する中、サマーアイル卿と少女ローワン、そして島民らは来年の豊作を祈り「夏は来たりぬ」を歌い、五月祭は最高潮を迎えるのでした。
キャスト
主な出演者
エドワード・ウッドワード、クリストファー・リー、ダイアン・レシント、イングリッド・ピット、ブリット・エクランドなどが出演しています。
ファイナルカット版
本作は製作40周年を記念し、2013年にロビン・ハーディ監督が未使用のフッテージも使用して再編集し、ファイナルカット版として完成させました。
土着的な風習の怖さ!
古代ケルトの儀式
古代ケルトには、ドルイドと呼ばれる有力な社会階級の人々がおり、彼らは宗教上の独自の儀式をつかさどり、生贄をささげる習慣があったという・・・。
異端宗教のテーマ
『ウィッカーマン』は、古代から根付いている異端宗教がテーマであり、信仰や価値観の違いが恐怖を生み、土着的な風習や宗教儀式の怖さを感じさせる作品です。
都会の法律や常識の無力さ
その怖さは、都会の法律や常識などが全く通用せず、古代からの風習によって人が殺される不条理な恐怖である。
主人公の滑稽さ
本作では、警察官なのに個人的な信仰を理由に「島民=狂人」だと思い込み、異教徒を野蛮と決めつける主人公が一番滑稽に描かれています・・・島民から見れば「警部=異端者」だ。
フォークミュージカル風のシーン
また、生贄をささげながら下品な歌を唄う、フォークミュージカル風のシーンが独特の魅力を放ち、ミステリアスな恐怖ドラマを盛り上げます。
そして残酷すぎるラストに唖然とさせられます。
作品概要
製作国:イギリス
監督:ロビン・ハーディ
上映時間:100分
劇場公開日:1998年3月21日
コメント